知られざるアニメーション ハーヴィー・クランペット

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短編アニメーション作品と作家の紹介、アニメーション映画祭情報。

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ハーヴィー・クランペット


Harvie Krumpet(監督:アダム・エリオット/22分/2003年)


 良い作品は、アニメーションに限らず、見れば見るほど良さが深まって行く。逆に初見はインパクトに惑わされて、その後だんだんと評価が下がる作品もある。この所『マダム・トゥトゥリ・プトゥリ』に関して、国際アニメーション映画祭の審査会で2度ほどトラブルがあった。トラブルの原因は、何度も見ていて確信をもった者と、初めて出会った者との評価のギャップにあったと思う。僕も初見は高く評価していて、その後、その中身の空虚さに評価は下がって行った。作品を評価をするのは本当に難しい。多分自分は、初見でも集中して細部にわたり見渡せていると思っているのだが、やはり一度見ただけでは、なかなか正しい評価を下す事は出来ないと思う。そしてその作品の身の丈にあった評価をしないと、作者も観客も不幸になる。
 『マダム』とは逆に、『ハーヴィー・クランペット』も僕は初見の評価を誤っていたと告白する(審査したわけではないけど)。英語版で見てセリフを半分以上正確に理解していなかった事が一番の要因だが、アニメーションの技術的にはたいした事がない、キャラクターデザインが『シンプソンズ』に似ていると思った事など、マイナス面ばかり見ていた。しかし今、数回日本語字幕、および日本語吹き替えで見て、初見の評価を撤回したい。

 悲劇的人生を少しひいた位置で淡々と語り、そこから人生に対する前向きな思想を誘い出す、見る度に愛着が湧いてくるアニメーションだ。一件皮肉的な語りにも見えるが、皮肉な言い方をする場合は、上から、もしくは、真に虐げられた下からの視線で、語ろうとする時の位置感が不安定になりがちだ。もしくはこういった作者の位置や、語りたい事さえないのに作られた作品のなんと多い事か。しかし、自分自身をよくわきまえているアダム・エリオットは、作者と作品の距離や位置が安定していて、誠実だ。そして技術の面でも、その技量と語るべき事が、作者の等身大で、嘘が無く、作るべくして形作られた作品である。だからその映画の中の人生は大げさに語らずとも、心を打つ。昨今日本映画に多い「泣かせよう」という目的が先にあって作られた企画ものとは、その製作意義が全く違う。こういう映画を「インディペンデント」、もしくは作家の作品と呼ぶのだろう。そしてこういうアニメーションを僕も求めている。
 この様なタイプの語り口を持った短編アニメーションを他にあまり知らない。犬童一心監督で、僕がアニメーションを手伝った『金魚の一生』は少し似ているかもしれない。
『ハーヴィー・クランペット』は、大変分かりやすく、難解な部分は全くない。しかし受け手次第で深みを増す。アニメーションとしては技術も画面作りも語りも派手さがなく、ある意味地味なこの作品がアカデミー賞を受賞しているのは、大変嬉しい。
 日本語版DVDが出ているので、未見の人はぜひ。過去の短編『アンクル』『カズン』『ブラザー』の3部作もすべて監督のコメンタリー付きで見られます。この3本もまったく同じ語り口なんだけど、いい。『ブラザー』以外はまだ2度づつしか見ていないけれど、特に『カズン』には心打たれた。

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こちらのメーキング本も制作者には役にたちます。他のオスカー受賞作品の解説も充実。
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  1. 2008/11/30(日) 23:35:43|
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